諏訪湖の辺に、諏訪を代表する建築物「片倉館」があります。
片倉館は、昭和初期、日本を代表する製糸家・片倉組の二代目片倉兼太郎が、諏訪の地域保養施設として建設した物です。当時諏訪では珍しいRC造2階建て。1年をかけ世界を巡った兼太郎の意気込みを感じさせる洋風建築です。

内部は千人風呂と呼ばれる大浴場、大休憩室があります。


この建物は、昭和63年諏訪市文化財に指定をされました。現在でも市民の交流の場、公衆浴場として利用されています。しかし、この片倉館も、周囲には高層のホテルが立ち並び、その姿は近づいた者だけの目に留まるような状態です。
「片倉館をもう一度観光の目玉として復活させたい」と市が願ったもので、そこに私たちの日頃の活動が認められ、諏訪市長より白羽の矢を立てていただきました。

ライトアップの依頼を受けた私たちは、まずこの建物に着いてデータを収集することを始めました。内部構造の確認や電気設備の状況を調査しました。


特に構造の調査では、普段立ち入れない小屋裏の鉄骨トラスなど、当時の苦労をしのばせるものがあり大変貴重な体験となりました。

象徴的な八角の尖塔の先端は人が、一人やっと入れるスペースしかなく、当時火の見櫓としても使われていたそうです。

この建物をどの様に見せ、アピールすべきか悩みました。
ただ全体を明るく照らすのか、それとも幻想的に浮かび上がらせるのか…。

私たちは、夜、この建物に簡易照明を当て、観察することを何度も繰り返し、データとしてこの建物を図面化、3Dに起こして見ることもしてみました。
この事業の目的は、文化財を活用する、文化財を見直してもらう、
観光名所の復活、生活の中にある文化財を感じてもらう。
これらのことを踏まえた結果をプレゼンボードにまとめ、市の方々にプレゼンを行いました。

・歴史を感じられるように
・暖か味を感じられるように
・親しみがもてるように
・生きている建物・文化財を知ってもらえるように
・人が集えるように


実行段階になって、特に配慮した点は文化財であると共に、個人の所有物で有ることでした。

行政側は《いかにコストを下げるか》。所有者は《いかにアピールするか》。
私たちは《建築に係る者として文化財をどの様に保存しつつ、新しいものにしていくか》。

これらのテーマを検討、試行錯誤した結果、既存の内部照明を使わせてもらい、外部照明を最小限にとどめ、暖か味のあるやさしい明かりで浮かび上がらせようと言う結論に達しました。
これはコストの削減にもつながりました。

ただし、既存照明だけでは補えない部分については、諏訪市側や所有者の片倉さんに説明をしました。

◎ 小屋裏のドーマーからこぼれる明かりで建物のボリュームを出したい。
◎ 使われていない部屋に照明をつけたい。
◎ 片倉館の象徴、尖塔に照明をつけ浮かび上がらせたい。
◎ 現在死んでいる配線・照明器具を復活させたい。
これらの要望は、所有者片倉さんも共鳴して下さり、快く承諾していただけました。

点灯式を終え、利用者の方の感想を聞いてみました。

観光でこられていた方は「正面玄関がとても綺麗、趣があっていいですね」
タクシーの運転手は「以前より目立つようになり、お客から聞かれることが多くなった」
デート中のカップルは「レリーフが浮かび上がり、扇のように広がる照明が素敵です」と言いながら写真撮影を続けていました。

地元の常連さんによると、最近写真撮影をする人が増えたそうです。
夏場は浴衣姿で夜の片倉館を眺めている人も増えてきているようです。

この企画を進めていく中で、改めてこの片倉館が生活の中に息づき、いかに親しまれているかを知りました。これがまさしくSUWA(すば)らしき宝なのだと…。