長野県建築士会諏訪支部 青年委員会
この計画は諏訪市城北小学校のPTAで、もの作りコーディネーターを務める、建築士会諏訪支部会員の方から、2009年7月12日の日曜日に行われた、木工教室の指導を、お願いされたことから、始まります。
木工教室当日は、一年生から六年生までの児童十数名と保護者が参加し、のこぎりや電動ドライバーを使って、椅子や本棚などを作りました。
諏訪市では物作りを通して、興味や意欲を持たせ、家族や地域の方々とのコミュニケーションが取れるよう、学校教育を実践しており、道具の使い方から教えた児童は、興味を持って、自分から作業するなど、当初の目的は達成されたようでした。
この学校には裏山があり、アスレチック遊具をこの山の木で作ったり、昔の卒業生が、東南アジア風の木のお面を作ったりと、物作りに親しんでいるのが分かります。
又、7月1日は建築士の日でもあり、建築士の仕事を児童は元より、保護者や地域の皆さんに紹介するため、昇降口ロビーにおいて、「建築士の仕事」と題し、建築展を開き、図面、模型、写真、継手や仕口を刻んだモデルを持ち寄り、一週間展示しました。
この時に「学校のお風呂が老朽化しており、近々取り壊すが、足湯として温泉を残したいので、六年生の卒業制作を協力して欲しい」と依頼され青年委員会の参加となった訳です。
詳しく聞くと、温泉は市から学校に引かれており、風呂場の取り壊しの後、温泉の供給が止まるため、足湯を作る事で温泉利用の継続を願い出たいというものでした。
校長先生とのお話の中で、CM大賞で温泉のある学校として、県知事賞を獲ったことや、校舎の南の、眺望の良い所に、8年は持つように作って、卒業生が成人を向かえ、母校の足湯に集まれるようにしたい夢も、語っていただきました。
週一回、一時間半の授業の進め方については、足湯の浴槽と東屋の制作をし、企画から設計に入り工事作業を体験する中で、建築と言う物を知ってもらう事にしました。指導や道具についてはボランティアとし、材料費は市から出して頂きました。
10月20日、六年生との、授業の初日。
挨拶の後、東屋の設置場所として、どの場所が良いか?5人ずつ5班に分かれ敷地内を歩いて、いくつかの候補地を挙げ、よい点,悪い点を検討し、校舎の南の、日当たりと眺望の良い場所へ決定。
11月に入り裏山からサワラと杉の木、直径二十七センチを初めとして、二十数本、PTAの方と児童で伐採。児童も斧を振っての参加です。
サワラは構造材と浴槽に、杉は屋根の野地板に使います。
11月6日、この日は神主さんに来ていただき、地鎮祭とは何であるか、というお話をしていただき、その後、式典に臨みました。
ここから、設計と基礎と東屋と記録の班に分かれて、同時進行で作業を進めます。
設計班では、児童4人で平面図と立面図を作製。最初に浴槽・椅子・東屋の大きさを、なぜこの寸法にしたのか、理由を考えさせながら、ラフスケッチを書き、その後に基本的な図面の書き方を教え、CADにより、実施設計へと入る。実施設計は、CADの使い方・部材の名前などを学習。
基礎班では、束石を据えるため、地縄張り、丁張りと、家を建てるのと同じ手順を踏み、根切り、砂利の敷き詰め、コンクリート練りを行う。
東屋班では、丸太の皮むき体験や、丸太の計測をし、製材所へ搬出。又、班の何人かは、士会会員の作業場で、かんな加工機の体験。そして、墨付けの仕方、仕口や継手の加工の仕方、木の性質、道具や刃物の扱い方を学習。
12月13日の日曜日は、保護者も参加しての作業。
保護者の方には少し危険な作業である、電気カンナを使った木材の削りをしてもらいました。お父さん、お母さんの方が、楽しんで作業するほどです。その後は、児童と一緒に作業しました。
児童の作業内容については、加工の線引きから始まり、のこぎりでホゾを作り、のみで穴を掘り、かんなで面取りをし、電動ドライバーで組み立てをしました。見本を見せてから作業してもらいアドバイスしながら進めます。
刃物や機械を使わせるのは、ケガの心配もありましたが、危険なことの説明をした上での作業に、児童も真剣に取り組んでいました。
2月2日 建て方。柱を建てて、長枘に込み栓打ち。
授業時間以外に、放課後や、学校の休みの日に、青年委員で段取りと、まとめの作業を行います。
足湯の浴槽は、さわらの木で作りました。 サワラは耐水性があることから、浴槽に適し、素材の柔らかい感触により、木の温もりや優しさが感じられます。長さ4メートル、幅43センチ、深さ26センチの大きな浴槽になりました。
2月16日 すのこ板をならべ浴槽を据え付け。
2月23日、腰掛けるベンチを作り、いよいよ、浴槽へと温泉を張ります。お湯もたまり、いい湯加減の中、ベンチいっぱいに腰掛け、そーっと足を入れます。たちまち、歓喜の声が上がり、実に楽しそうでした。
完成披露会には、児童の手作りのお菓子が並び、招待いただいた我々と保護者を前に、児童がこれまでの足湯作りを振り返り、スライド上映をバックに感想を述べました。
その後、足湯作りのために山の木を提供した地域の方々、校長先生にお礼の言葉を頂き、我々からも一言、児童へねぎらいと、制作に関われた事への感謝の言葉を述べました。
「難しかったけども楽しかった」
「私達、児童だけでは出来なかった、多くの方たちの協力のお陰です」
「設計図があったので作り方が良く分かりました」
「いい経験になった」
「ご指導のお陰で怪我なく、とてもいい物ができました」
「道具の使い方を教えてくれて有難かった」
「すみ付けやノコギリで切ることは初めてで不安だったけど、優しく教えてくれて、少し出来るようになりました」
児童の感想
3月9日の記念撮影には児童が足湯に入り記者の取材を受けました。その日の、テレビニュースに地域の話題として放映され、翌日には新聞にも載りました。
最後に、児童たちの卒業制作が建築という、木を使った物作りとなった訳ですが、山から木を切って建物にするという、地域材の地産地消を体験したことは良い思い出になったことでしょう。地域の人の協力で出来た足湯により多くを学んだ事と思います。
その後
足湯は後輩たちも使ってくれているようです。
長野日報 2016年6月10日
みんな成人に!
そして、諏訪市立城北小学校は、2021年3月末をもって残念ながら閉校しました。